世界最南端の町ウシュアイアより、夏季シーズンのみ、南極クルーズツアーが催行されています。このクル-ズツアーは、南極半島を訪れるコースが最も一般的ですが、中には南極圏まで訪れるコース、また南極周辺の諸島も訪れるコースなど、いろいろなツアーが販売されています。予めすべての日程が決まっている一般的な観光ツアーとは違い、氷山の動きや天候等を見ながら、詳細ルートとその日のアクティビティが決められていきます。以下に、南極クルーズツアー日程の一例として、ある日本人の南極クル-ズツアー体験記をご紹介します。  

 

■航海期間 20041218日~1229日(1112日) 

利用船  M/S Grigori Mikheev

1日目

世界最南端の町 ウスアイアを出航

出航後、ビ-グル水道を通過し、大西洋へ抜けドレイク海峡へ。

2日目

19日の午後遅く外気温、海水温ともに急激に下がり、南極収束線(Antarctic Convergence)を越えたことが告げられた。この見えない線は生物学や海洋学上も南大西洋と南極の実質的な境界線とされる。「吼える60度-ドレイク海峡」は終始23mの穏やかな波で、予定よりも早く最初の上陸地グリニッジ島に到着した。暫く使用されていないチリの基地(Arturo Prat station)の周辺では、ウェッデル・アザラシが心地よさそうに昼寝、ゲントゥーとチンストラップの2種類のペンギンも確認できた。

3日目

South Shetland諸島Greenwich  

晴れ 南緯6136分西経6037

日程に余裕が出来たため、南極半島の東側にまで足を延ばす。半島の東側は西側に比べ、平均気温が2度ほど低く、航路上の氷山の数も明らかに多くなる。ポーレット島は15万羽のアデリー・ペンギンの一大ルッカリー(営巣地)、午後には、ブラウン・ブラフと呼ばれる断崖直下のビーチに上陸。ここが南極大陸への記念すべき第一歩となる。

4日目

WeddellPaulet島、Brown Bluff 

曇り 南緯6334分西経5545

5日目

HannaPointDeception島 

暴風雨 南緯6240分西経6039

再び南極半島の西側に戻り、南シェットランド諸島リビングストン島のハンナ・ポイントを目指す。上陸地点の1キロほど手前にアンカーした頃に、昨夜からの風雨が激しさを増し、ゾディアックを降ろす作業にも支障がでるほど。乗船客はブリッジに集まり、双眼鏡で浜のゾウアザラシやペンギンの群れを見ながら天候の回復を待ったが、結局1時間後に「上陸不可」と判断された。次の予定地ディセプション島ホエラーズ・ベイも重要な上陸ポイントの一つで、かつてはノルウェーの捕鯨基地としても栄えたが、捕鯨の衰退とこの島特有の活発な火山活動により1970年代に撤収されたという。島全体がクロワッサン状となり、海底温泉が湧く火口湾への進入は、Neptune's Bellowsと呼ばれる狭い水路が唯一。結局、暫く湾内に停泊したものの、ミゾレ交じりの激しい風雨で上陸は不可となり、島の名の通りDeception(英語では「失望」や「期待はずれ」の意)の一日となった。

6日目

Orne島、Cuverville島、Neko HarbourParadise Bay 

快晴 南緯6446分西経6243

快晴のこの日は、航海中最も忙しい一日となった。まず朝食前の6時過ぎにゾディアックを降ろし、オルネ島へ。この島は南極半島と2つの大きな島の間を走るGerlashe海峡に位置し、周囲の高い雪山や氷河の景観に恵まれ、チンストラップ・ペンギンの小さなコロニーもある。朝食後には、Cuverville島へ。Errera水道の入口にあたるこの島には、この地域で最も大きなゲンツー・ペンギンのコロニーがあり、ビーチ沿いの雪原には縦横にペンギン・ハイウェイ(ペンギンが踏み固めた通路)が走り、部外者の我々はそのハイウェイを避けて、膝までもぐる雪原を行軍した。

午後、大陸側のネコ・ハーバーへ。ここでのハイライトは氷が浮かぶ海での寒中水泳。-2度の凍る海に勇敢に飛び込んだ「クレイジースイマー」は、10名全員がフィンランド人。クレイジースイマーたちの背後にはペンギンが遊泳し、本船のサウナに直行するためにゾディアックが待機していた。

夕刻にはパラダイス・ベイに停泊。ゾディアックを5艘を連ねて、鏡のような水面を約1時間クルーズ。その後、本船でデッキ・ディナー。船客、船員が一体となった踊りの輪は、午後11時過ぎの日暮れまで途切れることがなかった。

7日目

Neumeyer水道、Port Lockroy   

曇りのち晴れ 南緯6446分西経6243

本船は未明にフィヨルドのような景観のLemaire海峡通過を目指した。しかし海峡に入って間もなく厚い氷に行く手を阻まれ、何度となくチャージングを試みたが、安全面を優先(過去、他船が航行不能で亜国海軍砕氷船に救助された)の見地からついに断念。南緯6458分、これが私たちの達した航路最南端となる。

南極圏(Antarctic Circle=南緯66.5度以南)は氷と雪だけの世界で、観光の対象にはならないとの事。針路を北に変えNeumeyer海峡を元英国基地Port Lockroyに向けて進むと船は間もなく機関を停止、ブリッジで談笑中の乗船客から歓声が上がる。体長15mほどの2頭のハンプバックが悠々と船の周囲を泳ぎ始めていた。この大自然からのクリスマス・プレゼントは45分間続き、更に別れ際にショウのクライマックスがあった。船が機関を再始動させると、150mほど離れたところで鯨は手を振るかのようにフィン・スラップ(ヒレで海面を叩く行動)を繰り返す。そして信じられないことに、全員が見ている中で暫く海中に潜ったかと思うと、2頭同時のブリーチング(海上へのジャンプ)!!「10点満点!」と誰かが叫ぶ。それは疑いなくその場に居合わせた全員共通の採点だった。
Port Lockroy
は探検時代の博物館として知られ、郵便局と売店の収入で施設を維持。全員が筆を取り、2~3ヵ月後に届くだろう絵葉書に、この日の興奮を託した。

8日目

Hydrurga RocksExpedition Cruise        

曇りのち晴れ 南緯6400分西経6122

朝食後にHydururga Rocksと呼ばれる岩礁地帯に上陸。ウェッデル・アザラシを間近に観察しながら、ちょうど島を横断する形で雪の上を一列縦隊で行軍。ポイントとしてはインパクトが小さいので、途中で歩けなくなったオランダの老婦人を介助する振りをしながら、ゾディアックを呼び一足早く本船に戻る。

昼食後は、オスロ島周辺をゾディアック5艘連ねての1時間半のクルージング。南極の上陸地の条件は簡単明瞭で、接岸できるビーチがあり、雪や氷の状態が危険でない事など。ペンギンやアザラシも同じ条件を選ぶので生態を観察する目的も果たせる。その点オスロ島はクライマー垂涎の急峻な岩壁に囲まれ、これまでクルーズ船の目的地からは外れていた。しかし、その岩壁には多種類の鳥類が営巣し、狭く入り組んだ水路をゾディアックで入ると極地探検の気分に浸る事もできる。何よりも大小様々な氷山と光が織り成す神秘的な光景が印象的な半日だった。

9日目

Hannah PointYankee Harbor, Drake Passage 

南緯6246分西経6046

悪天候で23日に上陸できなかったハンナ・ポイントに再挑戦。高波がゾディアックの座席部分を洗う中、何とか上陸は果たしたものの、植生やゾウアザラシの繁殖地への移動は急な坂を上る必要があり、ガイドが数人踏査した結果、危険と判断された。再びゾディアックに乗り島の反対側の若いゾウアザラシの群れが多く見られるビーチへ。海岸の岩に微かにコケの種類が繁茂し、鯨やアザラシの骨が散乱する賽の河原のような上陸地だった。

帰路、「吼える60度線-ドレイク海峡」は本来の獰猛な姿を見せ、風速25m、波高78mの中で、2000トンの小船はローリングとピッチングを繰り返した。それでも、24時間立ち入りができるブリッジには、常時10数人の船客が集い、談笑し、波を見つめながら航海の名残を惜しんだ。

10日目

ドレ-ク海峡通過 南緯6033分西経6131

11日目

ドレ-ク海峡通過 南緯5729分西経6424

12日目

早朝、予定通りウスアイアに帰着。南極が特殊な目的地であった時代は終わり、近年は定期クルーズの大型船も多く見られる。大型船のアドバンテージとしては、波をある程度吸収する機能を持ち、客室の居住性や食事の質も小型船に比べ遥かに高い。一方、小型船Grigoriy Mikheevに今回乗船して、その機動性(上陸回数やゾディアック・クルーズ)や少人数の乗客によるアットホームな雰囲気にも大いに満足した。南極には地球の自然のままの景観と生態系があり、それも徐々に変貌しつつある今、早目の訪問をお薦めしたい。

 

Ente Regional Oficial de Turismo Patagonia Turística - 2006 - info@patagoniaturistica.org.ar

 

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